大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成2年(ラ)307号 決定

抗告人 有限会社 稲山興産

右代表者代表取締役 稲山京子

右訴訟代理人弁護士 峰島徳太郎

相手方 蔭山弘

大阪地方裁判所平成二年(モ)第五二九六四号担保取消申立事件について、同裁判所が、平成二年九月四日にした担保取消決定に対し、抗告人から即時抗告の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

本件担保取消申立を却下する。

理由

一、本件抗告の趣旨及び理由は別紙即時抗告の申立書記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

1. 一件記録によれば、抗告理由記載のとおり、

①  相手方から抗告人に対する第一次不動産処分禁止仮処分の申請、これに対する昭和六二年二月一〇日付大阪地方裁判所の仮処分決定(保証金五千万円)、同年三月一二日付同登記、右決定に対する抗告人からの異議申立、これに対する同裁判所平成二年三月二二日仮執行宣言付仮処分取消判決の言渡、同年同月二六日付同登記、右判決に対する相手方からの控訴提起、同年八月一七日相手方による右仮処分申請取下げがあり、また、

②  相手方から抗告人に対する右仮処分の被保全権利を訴訟物とする本案訴訟の提起、これに対する大阪地方裁判所平成元年九月二七日請求棄却判決の言渡、これに対する相手方からの控訴提起、これに対する大阪高等裁判所平成二年八月八日控訴棄却判決の言渡、これに対する相手方からの上告提起があり、そして、

③  相手方から抗告人に対する第二次仮処分事件の申請、これに対する平成二年四月四日付大阪高等裁判所の仮処分決定(内容は第一次仮処分と同一、但し保証金六千万円)、同年同月七日付登記、右決定に対する抗告人からの異議申立、

があったことが認められる。

2. 相手方は、第二次仮処分の六千万円の立担保により第一次仮処分については担保の事由がやんだことを理由に、平成二年八月三〇日第一次仮処分の五千万円の担保取消を申し立てたところ、原審は「同一被保全権利につき、控訴審で立担保六千万円による仮処分決定」により第一次仮処分の担保の事由がやんだとして、右申立を許容した。

3. ところで、本件のように、相手方が地方裁判所において五千万円の保証を立てて得た仮処分決定(第一次仮処分)が異議に基づく仮執行宣言付取消判決の言渡によって失効した後、右仮処分の被保全権利を訴訟物とする本案訴訟の係属していた高等裁判所において別個の申請に基づき六千万円の保証を立てて第一次仮処分と同一内容の仮処分決定(第二次仮処分)を得た(第一次仮処分事件はその後申請の取下げにより終了)場合に、第二次仮処分の保証が第一次仮処分により抗告人に生ずることのある損害をも担保するといいうるかに関しては、第二次仮処分決定においてその保証が第一次仮処分によって生じた損害をも担保するものであるとの趣旨を明らかにしていない限り、原則としてこれを肯定することは相当ではないと解されるところ、一件記録によれば、本件第二次仮処分決定にはこれを肯定することのできる文言の記載はなく、また、第二次仮処分当時、相手方は既に第一次仮処分異議訴訟及び本案訴訟の第一審においていずれも敗訴していたこと等に照らすと、その保証金額が第一次仮処分のそれより一千万円多額であることから直ちにこれを肯定することもできず、一件記録上、他にこれを肯定するに足りる特段の事由も認められない。

4. よって、第二次仮処分の立保証により第一次仮処分についての担保の事由がやんだものということはできず、他に担保の事由がやんだ事情も認められないから、担保の事由がやんだことを理由に、相手方の第一次仮処分の担保取消申立を許容した原決定は失当であるのでこれを取り消し、右申立を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 後藤文彦 裁判官 古川正孝 川勝隆之)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例